梅の細胞増殖抑制作用、抗酸化作用に関する研究
東海大学医学部基盤診療学系病理診断学
竹腰 進
本研究では、梅の細胞増殖抑制作用(抗腫瘍効果)および梅の抗酸化作用について検討を行った。その結果、梅成分が抗腫瘍効果、抗酸化作用を有することを明らかになった。
1.梅成分分析と梅に含有される成分による細胞増殖抑制作用
植物中には種々の機能性化合物が含有されている。フラボノイド類は特によく知られている機能性色素化合物である。本研究により梅成分中にも多くのフラボノイド類が含まれていることが判明した。
図1は梅の抽出液を薄相クロマトグラフィーで分析した実験結果を示している。矢印で示す位置にアンモニア液噴霧によりフラボノイド類特有の呈色反応が認められ、梅抽出物中にはフラボノイドが含有されていることが明らかとなった。
植物中に存在するフラボノイドは約4000種知られており、それぞれのフラボノイドに特有の機能があることが判ってきている。梅に含有されるフラボノイドの種類は現在のところ判明していない。今後、梅に含有されるフラボノイドの種類を明らかにし、梅の効能と含有されるフラボノイドの種類との関連性を検討する必要性があるものと考えられた。
[図1 梅に含有されるフラボノイド(薄相クロマトグラフィーによる分析)]
古くから梅には抗腫瘍作用があることが知られている。梅に含有されるフラボノイドも細胞増殖抑制作用を介して抗腫瘍効果を発揮することが判っている。
前立腺由来培養細胞PC2を用いた実験により、フラボノイドの一種であるケルセチン、ゲニステインは、抗ガン剤として癌の治療に用いられているビンブラスチンと同様に細胞増殖抑制作用を示した。この結果から梅の抗腫瘍作用は梅に含まれるフラボノイド類によるものである可能性が強く示唆された。
PC2細胞はフラボノイドの添加により紡錘形から球状に変化した。これは微少管重合を阻害することにより細胞増殖を阻害するビンブラスチンと同様の形態変化であったことから、フラボノイドが微少管重合を介して細胞増殖抑制作用を発揮することが示唆された。
微少管重合作用は細胞増殖期に核酸を含めた細胞成分の移動に重要な役割を果たしており、これが阻害されると細胞の増殖が抑制される。フラボノイドが含有されている梅エキスの微少管重合に及ぼす作用を検討した。その結果、梅エキスは微少管重合を著明に抑制することが明らかとなった(図2)。
これまでフラボノイドの抗腫瘍作用は細胞増殖サイクルに働くキナーゼ(リン酸化酵素)を阻害することによるものであると考えられてきたが、本研究によりフラボノイドが微少管重合を阻害することにより細胞増殖を抑制することが判明し、更にフラボノイドを含有する梅エキスが微少管重合を阻害することにより細胞増殖を抑制することが明らかとなった。
[図2 梅エキスによる微少管重合抑制作用]
2.梅の抗酸化作用
人間も含めて地球上に生息している生物は、酸素や紫外線あるいは環境ホルモンなど様々な外部環境因子の影響を受けている。それらの外部環境因子は酸素のように好気的生物にとって必須のものもあるが、生物を損傷するものも少なくない。実は、酸素も強い毒性作用をもっており、老化現象や発癌に関連があることが判ってきている。そのため酸素を利用してエネルギーを得ている生物はこの酸素毒性に対する防御機構を備えていることが必須条件である。
しかし、この防御機構の機能が減弱する、あるいは脳梗塞、炎症などの強い酸素毒性下におかれた時には、この防御系と酸素毒性のバランスが崩れ“酸化ストレス”と呼ばれる病的な状態に陥る(図3)。
[図3 酸化ストレスの概念図]
植物の中にはこの酸化ストレスを防御する物質が多く含まれている。お茶やタマネギ、リンゴなどに多く含まれているフラボノイドは最も良く知られている植物性の抗酸化物質である。
フラボノイドは、抗酸化作用の他にも抗癌作用、抗菌作用などの作用があることが判っている。私たちは梅の中に酸化ストレスを強く抑制するこれらの物質が含まれていることを見いだし、実際に梅エキスが抗酸化作用を有することを明らかにし(図4)、梅が動脈硬化、発癌などの色々な疾患の原因因子として考えられている酸化ストレスを抑制する“化学予防”植物性食品としての可能性を見いだした。
[図4 梅エキスによる脂質過酸化反応抑制作用]