紀州梅効能研究会は梅・梅干し・梅リグナンの様々な健康効果を医学的に検証・解明しています。

紀州梅効能研究会

研究成果

梅エキスの生活習慣病(糖尿病、高脂血症)に及ぼす効果

横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター
内分泌・糖尿病内科
山川 正

Ⅰ.現在までの成果

梅エキスの血糖降下作用についての検討

概論:
わが国では食生活の欧米化に伴い、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病が急速に増加し、その対策が急がれている。梅とその加工食品は、古来より日本を代表する健康食品として食され、最近では日本食に対する健康食品としての評価から広く,国外においても消費されるようになってきた。しかし、緑茶におけるカテキンや、赤ワイン中のポリフェノールというような、梅に含まれる有用な化学物質の検出は立ち遅れており、梅加工食品の疾病への有効性およびその科学的根拠を立証した報告は非常に少ない。
近年ムメフラールといった、梅に含まれる主要成分が発見され、生活習慣病や癌の予防に役立つと期待されているが、その科学的な作用はいまだ不明である。
糖尿病は近年爆発的に増加しており、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の原因として大きな位置を占めており、生活習慣病の中でも高脂血症と並んで重要な位置を占めいている。また、糖尿病に対する医療費は急速に増加しており、保健財政を圧迫する要因となっている。したがって、糖尿病を自然食品で治療または軽減することができれば、動脈硬化性疾患の予防につながりひいては医療費の削減につながり国民に大きな福音になるものと思われる。そこで、今回我々は2型糖尿病に対する梅肉エキスの有効性を解明する目的で、肥満2型糖尿病モデルマウス、およびラットに梅肉エキスを投与し、血糖および、インスリン分泌に及ぼす効果について検討することとした。

方法:
ラット及びマウス:Wistar fattyラットは武田薬品研究所より供与されたラットを繁殖し、用いコントロール群7匹、梅投与群7匹をそれぞれの実験に供した。db/db マウスは日本クレアから購入した。すべての動物は横浜市立大学医学部動物センターにて飼育した。
材料:梅肉エキスは南部川村役場より供与された。成分の詳細は論文に記載されている(Nakamura, 1995)。
実験計画:15~20週令の0.25%梅エキスを飲水中に混ぜ2週間投与し、コントロールの水群と比較した。0週、2週に採血、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)、インスリン感受性試験を行った。
経口ブドウ糖負荷試験(OGTT):12時間以上絶食後にOGTTを施行した。ブドウ糖を1g/ kg体重ゾンデにて経口投与し、0,30,60,90,120分後に尾静脈より血液を採取し、血糖を測定した。
インスリン感受性試験(ITT):12時間以上絶食後のdb/dbマウスにInsulin (0.075units/mouse, units /kg)を腹腔内に注射し、0, 30, 60, 90, 120分後にそれぞれ尾静脈より採血し、血糖を測定した。

成績:
1)体重の変化
梅肉エキスの体重、食餌摂取量に及ぼす効果を検討するため、種々の濃度(0.25%、1%)の梅肉エキス(plum)を投与し、比較検討した。図1に示すようにWistar fatty (WF) ラットはWistar lean(WL)ラットに比べて食餌摂取量が多く、これは既報のとうりであった。0.25%、1%梅肉エキスはWLラットの食餌摂取量に影響を与えなかったが、1%梅肉エキスはWFラットの食餌摂取量を減少させ、体重も減少した。一方、0.25%梅肉エキスは食餌摂取量及び体重に影響を与えなかった。食餌摂取量と体重は血糖及び脂質に影響を与えるためこれらを変動させない0.25%の梅肉エキスを用いて以下の実験を行った。

[体重の変化]

体重の変化

[食餌摂取量の変化]

食餌摂取量の変化

2)経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
梅肉エキスは投与群では各時間における血糖値がコントロール群に比し有意に低値を示した。area under the plasma glucose curve (AUCs)も24%低下していた。血中インスリン濃度(IRI)も梅肉エキス投与群で低値を示した。Glucose-insulin indexも低値を示したことから、インスリン感受性が改善したことが示唆された。梅肉エキスの血糖降下作用はdb/dbマウスにおいても同様に認められた。

[WFラットにおける梅肉エキスの血糖降下作用(OGTT)]

WFラットにおける梅肉エキスの血糖降下作用(OGTT)

[db/dbマウスにおける梅肉エキスの血糖降下作用(OGTT)]

db/dbマウスにおける梅肉エキスの血糖降下作用(OGTT)

3)インスリン感受性試験(ITT)
インスリン感受性を更に調べるためdb/dbマウスを用いてインスリン感受性試験(ITT)を施行した。図のように、梅投与2週間群(plum(2))の血糖低下率は水投与群に比べて若干高い傾向を示したが、統計的に有意ではなかった。

[db/dbマウスにおける梅肉エキスのインスリン感受性に与える影響(ITT)]

db/dbマウスにおける梅肉エキスのインスリン感受性に与える影響(ITT)

4)総コレステロール、トリグリセリド
WFラットの同系コントロールであるWLラットは肥満にならず、2週間の飼育によりコントロール群では総コレステロール中性脂肪値に変動は認めず、梅肉エキス投与による影響は認められなかった。一方、WFラットは2週間の飼育により水群では総コレステロール、中性脂肪がともに上昇する傾向が認めらた。しかし、梅肉エキス投与によりこの上昇が有意に抑制された。梅肉エキス投与により肥満糖尿病モデルラットの血清中性脂肪及び、総コレステロールの低下することが示唆された。

[梅肉エキス投与による肥満糖尿病モデルラットの血清中性脂肪及び、総コレステロールの低下]

梅肉エキス投与による肥満糖尿病モデルラットの血清中性脂肪及び、総コレステロールの低下

考察:
我々は梅肉エキスに血糖降下、及び脂質改善作用があるかどうかを確かめるため本研究を計画した。肥満2型糖尿病モデルラットであるWistar fatty(以下WF)ラットに梅肉エキスを投与することにより1)OGTTにて血糖を低下させ、2)その作用はインスリン感受性を改善することによることが明らかとなった。3)また、血中総コレステロール、中性脂肪濃度を低下させることが示唆された。
梅肉エキスの血糖降下作用を観察するのに適当な投与量を決定するため種々の濃度のエキスを投与し、食餌摂取量、体重を指標として検討した。食餌摂取量は当然、血糖に影響を与えるため、摂取量の低下を招くような高濃度のエキスでは血糖に対する純粋な効果を見ることはできない。そこで、岸川等の論文を参考に、0.25%~1%の梅肉エキスを飲み水に混ぜて投与し検討した。1%では食餌摂取量が極端に減少し、体重も著明に低下するため食餌摂取量、体重に影響を与えない0.25%を選択し、以降の実験を行った。
Glucose indexであらわされるインスリン感受性は梅肉エキス投与により有意に改善し血糖が低下した。しかし、この機序についての検討は今回の実験では行われていない。筋肉、肝臓への糖の取り込みを促進するのか、あるいはインスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾンのように脂肪組織の再構成によりインスリン抵抗性を改善するのか(de Souza 2001)。また、筋肉中のTG含量がインスリン感受性に関与するという報告があり、我々も同様の検討する必要があると思われた(Pan et al., 1997)。
インスリン抵抗性は高脂血症の病因として深く関わっている。したがって、梅肉エキスによる中性脂肪低下作用はインスリン感受性の改善によるものと推察される。実際,インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体投与により中性脂肪が改善するという報告と合致する。梅肉エキス投与により血中総コレステロールちも低下した。梅肉エキスには多くの フラボノイド、クマリン誘導体が含まれていることが知られている。これらのポリフェノール類は多くの果実や野菜などにも含有されておりLDLコレステロールの酸化を抑制することにより動脈硬化性疾患の予防に役立つものと期待されている。乾燥した梅の主要成分はクロロゲン酸類である。このクロロゲン酸類は強力な抗酸化作用を有していることが知られている。(Donovan and Meyer, 1998; Nakatani et al., 2000) また、梅は様々なフラボノイドが含有している。
クマリンやケイ皮酸エチルも梅に含まれているが、梅肉エキスが血液のFluidityを改善することが明らかとなっている(Moutounet, 1975, Chuda, Y.et al 1999).このように梅肉エキスには抗動脈硬化作用があることが示唆される。
今後更に詳細な機序ならびに動脈硬化性疾患に対する予防効果について検討していく必要があると思われた。

Ⅱ.今後の展望

1.糖尿病に対する効果
梅肉エキスの血糖降下作用については前述のようにインスリン感受性を改善することにより血糖が下がることを示した。しかし、その詳細な分子機序については明らかとなっていない。インスリン感受性を規定する因子には様々なものがある。まず、
(1) インスリン感受性に影響を与える種々の遺伝子発現について検討する。
(2) 血中アディポネクチン濃度に与える影響
adiponectinは抗動脈硬化作用があると考えられており、肥満、インスリン抵抗性に深く関与しており、肥満、インスリン抵抗性状態において血中濃度が低下することが知られている。梅投与によりこれが改善するか検討する。

2.食欲中枢に与える影響
視床下部などにおける下記遺伝子発現をin situ hybridyzationにて検討する。
食欲促進作用に働く遺伝子には
1)AGRP、2)Galanin、3)Ghrelin、4)MCH、5)NPY、6)OrexinA,Bが知られており、
摂食抑制には
1)CART、2)MSH、3)GLP-1,4)Urocortin、5)UrocortinIIの遺伝子の関与が知られている。
これらの遺伝子は主に脳内で働いており、梅を投与したラットの脳を抽出し、食欲促進及び抑制遺伝子の発現量の変化について検討する予定にしている。

3.高脂血症、動脈硬化
(1) 抗動脈硬化作用
梅肉エキスの抗動脈硬化作用を検討するためヒト動脈硬化のモデルマウスであるアポEノックアウトマウスに梅エキスを投与し、大動脈の動脈硬化の有無について病理学的に検討する。また、その機序について検討する予定である。
(2) 脂質代謝
住民検診のデータを活用を活用し、梅摂取、非摂取群を比較し、両者の血中総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール値などを比較する。

以上のように、生活習慣病である糖尿病、高脂血症に対する梅の効果を科学的に明らかにしていく予定である。

文献:

  1. Chuda, Y.Ono, H. Ohnishi-Kameyama, M. Mumefural, citric acid derivative improving blood fluidity from fruit- juice concentrate of Japanese apricot (Prunus mume Sieb. et Zucc) J Agric Food Chem 47:828-31,1999
  2. de Souza, C. J.,Eckhardt, M.Gagen, K. Et al. Effects of pioglitazone on adipose tissue remodeling within the setting of obesity and insulin resistance. Diabetes 50;1863-71,2001
  3. Donovan, J.L., Meyer, A.S Phenolic composition and antioxidant activity of prunes and prune juice. J Agric Food Chem 46:1247-1252,1998
  4. Moutounet, M.Dubois, P.Jouret, C. Major volatile compounds in dried plums  C. R. Acad Agric Fr 61:581-585,1975
  5. Nakatani, N. Kayano, S.Kikuzaki, H. Identification, quantitative determination, and antioxidative activities of chlorogenic acid isomers in prune. J Agric Food Chem 48:5512-5516,2000
  6. Pan, D. A.,Lillioja, S.,Kriketos, A. D. Skeletal muscle triglyceride levels are inversely related to insulin action Diabetes 46: 983-8,1997
参加企業

和歌山県産農産物の機能性を医学的、科学的に解明することを目的とした機能性医薬食品探索講座は、梅加工会社の寄付により大阪河﨑リハビリテーション大学内に設置運営されています。

梅干博士

宇都宮 洋才(うつのみや ひろとし)
医学博士。専門は病理学。言い伝えの域をでなかった梅干しの効能を国内外の共同研究によって医学的に解き明かす。梅干博士として知られ、マスコミや講演でも活躍。2022年4月より、大阪河﨑リハビリテーション大学 機能性医薬食品探索講座 教授。

メディア紹介
  • あさイチ(NHK総合テレビ)
  • Rの法則(NHK Eテレ)
  • ためしてガッテン(NHK総合テレビ)
  • 林修の今でしょ!講座(テレビ朝日)
  • 主治医のみつかる診療所(テレビ東京)
関連リンク