紀州梅効能研究会は梅・梅干し・梅リグナンの様々な健康効果を医学的に検証・解明しています。

紀州梅効能研究会

研究成果

梅に含まれる生理活性物質の単離と化学構造決定

近畿大学理工学部
宮澤三雄

1. はじめに

いつまでも病気になることなく健康で過ごしたいと願うことは、全ての人々に共通の思いであり、近年の健康食品市場の拡大にも見られるように、病気の予防に人々の関心が向けられるようになってきた。我々が、普段口にしている食品(野菜、果物、お茶など)には様々な生理活性成分が含まれており、その中から抗癌作用や抗菌作用、抗酸化作用を示す成分などが数多く発見されている。このような成分を含む食品を日常的に摂取することによって病気を予防することができれば理想的であるといえる。
本研究では、日本人が日常的に古来より摂取し、体に良い様々な効能が伝え続けられている梅(Prunus mume Sieb. Et Zucc.)の抗変異原成分、α-グルコシダーゼ阻害成分、ヘリコバクター・ピロリ菌運動能抑制成分の各種生理活性成分について検討した。

2. 未熟梅および完熟梅の精油成分

梅果実の成熟度の違いによる含有成分の比較を目的として、未熟梅および完熟梅の香気成分の解析を行った。未熟梅および完熟梅は水蒸気蒸留にて揮発成分を抽出し、GC、GC/MSにて成分の検討を行った。その結果、未熟梅ではbenzaldehydeが主成分であり、その他の成分(tricosane、-terpineol等)は微量にしか含まれていないのに対して、完熟梅ではbenzaldehydeの含有量は少なく、isolongifolol acetateやbutyl acetateをはじめとするエステル体の成分が多く見られる結果となった。この結果より、梅果実が追熟することにより発生するフルーティーな香りの本体を明確にした。

完熟梅

完熟梅

3. 未熟梅に含まれる抗変異原成分

細胞の癌化の第一段階であるイニシエーションを検出するumu testは、DNA損傷時にみられるSOS反応を利用した新しいタイプの短期変異原試験法であり、抗変異原物質を調べるために有用な方法である。未熟梅のメタノール抽出物(1387 g)のumu test を行ったところ、変異原物質であるTrp-P-1に対して抑制効果が認められた。そこで、このメタノール抽出物を各種溶媒に順次転溶し、SiO2 column chromatographyによる分画を繰り返すことにより、SOS誘導抑制成分として、trimethyl citrateおよびdimethyl citrateを単離した。それぞれのTrp-P-1に対するSOS誘導抑制効果は2.0mol/mLにおいて51.2%、41.5%であり、trimethyl citrateのID50値は1.9mol/mLであった。

未熟梅

未熟梅

4. 未熟梅に含まれるα-グルコシダーゼ阻害物質

小腸上皮上に局在する二糖類分解酵素であるα-グルコシダーゼを特異的に阻害する事は、糖質吸収を直接阻害し、糖尿病やダイエットに効果を発揮する。本研究で、未熟梅のメタノール抽出物の各転溶部をα-グルコシダーゼ阻害試験のアッセイを行った結果、CH2Cl2転溶部に活性が見られた。そこで、α-グルコシダーゼ阻害活性物質を明らかにするため、SiO2 column chromatographyによる分画とα-グルコシダーゼ阻害試験を繰り返すことにより、トリテルペンの一種であるoleanolic acidを活性物質として単離した。oleanolic acidは60 µMの濃度で92.0%のα-グルコシダーゼ阻害活性を示し、そのIC50値は24.1 µMであった。

oleanolic acid

5. 未熟梅に含まれるヘリコバクター・ピロリ菌に対する運動能抑制物質

ヘリコバクター・ピロリ菌は胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因である事が証明された菌であるが、この菌の働きを阻害するには、殺菌、制菌、運動抑制の3つが考えられる。本研究では、未熟梅50 Kgをメタノールで12時間加熱・還流抽出を行った抽出物にヘリコバクター・ピロリ菌に対する強い運動能抑制効果がみられた。そこで、未熟梅のメタノール抽出物の各転溶部(Hexane、CH2Cl2、EtOAc、BuOH、H2O)のアッセイを行ったところ、CH2Cl2転溶部に強い活性が見られたため、SiO2 column chromatographyによる分画と運動能抑制試験を繰り返すことにより、リグナン類の一種である(+)-syringaresinolを活性物質として単離し、そのIC50値は50.0 µg/mLであった。
また現在、梅エキスからの(+)-syringaresinolの単離および梅エキスに含有される他の運動能抑制物質についても検討を行っている。

(+)-syringaresinol
参加企業

和歌山県産農産物の機能性を医学的、科学的に解明することを目的とした機能性医薬食品探索講座は、梅加工会社の寄付により大阪河﨑リハビリテーション大学内に設置運営されています。

梅干博士

宇都宮 洋才(うつのみや ひろとし)
医学博士。専門は病理学。言い伝えの域をでなかった梅干しの効能を国内外の共同研究によって医学的に解き明かす。梅干博士として知られ、マスコミや講演でも活躍。2022年4月より、大阪河﨑リハビリテーション大学 機能性医薬食品探索講座 教授。

メディア紹介
  • あさイチ(NHK総合テレビ)
  • Rの法則(NHK Eテレ)
  • ためしてガッテン(NHK総合テレビ)
  • 林修の今でしょ!講座(テレビ朝日)
  • 主治医のみつかる診療所(テレビ東京)
関連リンク